2023.06.07
2023.06.07
進化するテクノロジー、加速するデジタル化…。昨日の常識は、今日の常識ではなくなるなど不確実性を増す時代においては、中長期計画すら短期間で練り直さなければならなくなるほど、企業を取り巻く環境は倍速でダイナミックかつ刻々と変化していく。3年以上も続いた新型コロナウイルス禍は、こうした状況をさらに加速させたことは間違いない。
田宮印刷株式会社と株式会社フロットを擁する田宮グループは、厳しさを増しつづけるこの外部環境のうねりを乗り越えて、どのように変化し、成長していこうとしているのか。
「アシタミル」。この旗印の下で、田宮グループは、世の中が大きく動き出すのを見計らい、グループ始まって以来最大と言われる全社的なプロジェクトをスタートさせた。
今回のトップインタビューでは、「アシタミル」の先頭に立つ阿部和人社長に、その全貌からプロジェクトに込められた想いまで、すべてを語っていただいた。
「創業以来最大のプロジェクト」「社員全員参加の全社的なプロジェクト」「これまでにない長期間プロジェクト」といったように、「アシタミル」はプロジェクトとしてその規模が強調されてはいるが、はたしてどんな内容のプロジェクトなのだろうか。阿部社長には、まず「アシタミル」というスタート間もないこのプロジェクトの概要や全体像を共有していただいた。
阿部社長:「アシタミルは、「インナー(社内向け)」「アウター(社外向け)」「経営」の大きく3つのカテゴリーに分けて構築してあり、9つの実行施策があります。そして、田宮グループを構成する田宮印刷とフロットから選抜された延べ60名ものメンバーが、それぞれチームを形成し実行に当たっていきます」
実行施策がびっしりと書き込まれた1枚のプロジェクト計画シートを一望すると、手にとるように「アシタミル」の全体像を掴むことができる。現時点でプロジェクトを構成する9つの実行施策には、たとえば「インナー(社内向け)」であれば、多様な意見を引き出し、考え学ぶ場として「アシタミル・ディスカッション」という目玉施策がある。また、「アウター(社外向け)」であれば、自社メディアやオリジナル動画、WEBサイトを駆使した「企業情報の発信強化」施策や、「経営」であれば「本社機能の工場への移転」施策といったかなり大掛かりな施策も幅広く盛り込まれている。
期間は、2023年4月〜2026年3月までの丸3年間。期間中継続する施策もあれば、単年で完結する施策もあり、また新たな施策が追加されることも想定されるなど、「アシタミル」は拡張性のあるプロジェクトとも言えるだろう。
そんな「アシタミル」には、どんな目的があり、どんなビジョンが描かれているのだろうか。プロジェクトがどんな形・スピードで進んでいこうともブレることのない目的・ビジョンがあれば、すべての社員が同じ方向を向き、力強く前に進むことができるはずだ。「アシタミル」のいちばんの核心に触れ、プロジェクトの本当の意味を知ることが何よりも、「アシタミル」への共感と、次なる行動を生む原動力となるに違いない。
「アシタミル」の目的・ビジョンへと話を向けると、阿部社長から「社内コミュニケーションとその効果を、いちばん大事にしていきたい」という想いが見えてきた。
阿部社長:「厳しい社会情勢、新型コロナウイルス、印刷物の減少などのさまざまな外部環境の脅威に立ち向かうには、一言で言えば田宮印刷とフロットが「全社一丸となる」「一枚岩になる」ということです。アシタミルでは、経営的にはいくつかの施策がありますが、今期第一に本社機能の工場移転があります。 この工場への移転で一番期待しているのは「コミュニケーションの改善」です。 現在、本社と工場が離れているためにコミュニケーションが取りづらい環境にあり、コロナ禍でさらに拍車がかかったと感じています。こうしたコミュニケーションの良し悪しは、最終的な製品・サービスにも影響すると感じていて、良好なコミュニケーションを図ることができれば、より良い製品・サービス、より良い組織風土をつくることができると考えています」
「アシタミル」の目的は、阿部社長が示すように、とても明快だ。いま目の前に立ちはだかる難局を乗り越え、田宮グループの次なるステップに向けて、そして未来に向けて、田宮グループが一つになりチカラを結集し臨んでいくことだ。「アシタミル」の3カテゴリー・9つの実行施策の一つひとつにおいて、それぞれの社員が向き合い、有機的につながり合い、対話を通して活性化したコミュニケーションの先に、「全社一丸」「一枚岩」になるための良好な社内コミュニケーション環境の醸成が期待されている。
もちろん最終的には、田宮グループの経営理念「私達は働き甲斐のある企業を目指します」「私達はお客様の役に立つ企業を目指します」「私達は地域に役に立つ企業を目指します」の実現に帰着していくことになる。
異なる大きさのふたつの三角形が向き合い、先端が交わり合う「アシタミル」のロゴマークを見てみてほしい。実はこのロゴマークには、「全社一丸」「一枚岩」でありたいという阿部社長の想いがしっかりと込められ、表現されている。
阿部社長:「アシタミルのロゴマークには、「経営陣と社員」「社員同士」、さらに「お客様と自社」「地域と自社」が、しっかりと向き合う姿勢、そして交わり結ばれる瞬間が表されています」
「ものづくりを、全体・全社でやっていくというか。社員がプライドを持って、田宮グループのブランドを守ろうとしている。そして、職場のヒエラルキーや縦割りを横断して、笑顔でワイワイ、ガヤガヤとコミュニケーションしている。それも、ライトに、カジュアルに、自由に。それが、田宮グループの当たり前になってくれれば良い。そのためのプロジェクトということですね」
社員一人ひとりの所作や振る舞い、行動は、自社のすべての製品・サービスにしぜんと現れてくる。社員一人ひとりがお客様や地域に意識を向けて、柔軟に連携しているイメージこそ、いま阿部社長が「アシタミル」の先に思い描いている組織の姿なのだろう。
阿部社長によれば、田宮グループの祖業である印刷の需要減少は、3年余りの新型コロナウイルス禍において、さらに拍車がかかったようだ。紙に代わる媒体としてデジタル媒体のその情報量の多さと表現力の豊かさに触れた顧客は、紙媒体との格差を実感し、社会全体が一気にデジタルコンテンツへと舵を切ったというのだ。その変容の凄まじさは、「中長期でぼんやりと描いていた印刷業の10年後が、この3年で来てしまった感じがする。時代のスピードに追いついていかなければならない」という、阿部社長の言葉が象徴している。
だが、そんな状況の中でも、阿部社長は立ち止まることはない。田宮グループを積極的に変化させていこうと成長戦略を描き、すでに走り出している。
阿部社長:「「戦略的に縮むという成長モデル」という言葉があり、田宮グループもまさにその方向だと思っています。そのポイントは3点。一つは、量を追いかけるのではなく、収益を最重視すること。もう一つは、市場の要求に応えて、コンパクト化する事業と拡大する事業を分けること。そしてもう一つが、自社ブランドを上げることです」
印刷周辺サービスを強化し事業をスケールさせていく点でも、高品質・高付加価値の製品・サービスをワンストップで提供していく点でも、田宮印刷とフロットの強固な結びつき、つまり田宮グループの一体性が必要になる。そう、どのポイントにおいても、阿部社長が望む「全社一丸」「一枚岩」にならなければ、「戦略的に縮む成長モデル」を到底実現することはできない。これほどの変化や変革が求められているからこそ、わたしたちはいまこそ「アシタミル」の旗印の下で、同じ方向を向いて共に行動し、一つにならなければならない。
ただし、阿部社長は、不安を煽ったり、危機感を植えつけるようなやり方は、好まない。
阿部社長:「どんな厳しい時でも、少しの夢とか、少しの希望を、誰かが語ってね」
こうした少しでも夢や希望を持つ姿勢や考え方がカタチとなったのが、「アシタミル」の目玉施策である「アシタミル・ディスカッション」だろう。
「アシタミル」のロゴマークには、実はもう一つ主要なコンセプトがある。マークを横に傾けてみてほしい。左右非対称ではあるが、向こう側を覗くメガネのような形は「将来を見通すチカラ」を表しており、「アシタミル」のプロジェクト名の由来にもなっている。
「アシタミル・ディスカッション」では、「将来を見通すチカラ(メガネ、スコープ)」を切り口に、地元中小企業経営者の方々に、生の経営体験やビジョンをお話していただき、さらに少人数のグループに分かれて、設定されたテーマに沿ってディスカッションを行うという。
阿部社長:「人は、アウトプットすることではじめて、成長もそうだし、頭を巡らせることができるんです。ですから、みんながワイワイとアウトプットする研修のようなものができないものかと、ずっと考えていました。アシタミル・ディスカッションでは、わたしたちの会社・業界・顧客、地域の将来、自身の将来などをディスカッションし、多様な意見を引き出し、それを受け入れ、考え・学ぶ場。そして、会社に対して意見が出れば、実行可能なものを推進していきます。お互いにいろいろな話をする中で、お互いに成長できるのではないかと思います」
活発なディスカッションを通して、はたしてどんなアウトプットが生まれ、どんな良い変化や成長がもたらされるのか。仕掛け人の阿部社長自身も、楽しみでならないだろう。
今回トップインタビューを行ったちょうど10日後。ゴールデンウィーク明けの5月8日(月)には、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が、季節性インフルエンザと同等の扱いとなる「5類」へと引き下げられた。国内初の感染者が確認されてから3年4カ月。未曾有の感染症危機から脱し、コロナ対応は有事対応から平時対応に移行した。
何かの“おわり”の後には、新しい何かの“はじまり”が、必ずある。
「アシタミル」の下で田宮グループ全社員が向き合い、一つになり、この“はじまり”をしっかりと捉えながら、大きな変化に飲み込まれることなく自らを変化・成長させていくのは、いましかない。
田宮印刷・フロットの全社員が互いに理解し合い、尊重し、
一丸団結して新たな未来を創っていき、
経営理念である「私達は働き甲斐のある企業を目指します」
「私達はお客様の役に立つ企業を目指します」
「私達は地域に役に立つ企業を目指します」を、自信をもって宣言する。
阿部和⼈(あべかずひと)/田宮印刷・FLOT 代表取締役
⼭形県大石田町⽣まれ。⼤学卒業後、1988年⽥宮印刷株式会社へ⼊社。営業一筋。本社営業部⻑、仙台支店長、営業部門統括、常務取締役を経て、2019年6⽉⽥宮印刷株式会社および株式会社フロットの代表取締役社⻑に就任。多趣味。